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東京地方裁判所 昭和31年(モ)12116号 決定 1956年10月10日

申立人 大同石油株式会社

被申立人 橋村利光

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立人の本件申立の趣旨及び原因は別添申立書記載のとおりである。

申立人は和議法第二〇条第一項により和議開始前の保全処分として本件強制執行の停止命令を求めているのであるが当裁判所は次のような理由により右法条による保全処分として強制執行の停止を命ずることはできないと考える。

和議法第二〇条第一項の文理からは必ずしも明かではないが、同条項による保全処分は和議債務者の行為により和議債務者の財産が隠匿又は離散されることを防止することを目的とする。(破産法第一五五条の保全処分に関する東京高等裁判所昭和二十七年八月二十九日決定参照)すなわち、同条項による保全処分は和議債務者の作為、不作為のみを対象とすべきであつて、第三者に対する関係で、例えば債務者の所有物件を所持する第三者に対し直接その処分禁止をなし、或は第三債務者の財産を差押えるような保全処分は第三者の権利を侵害すること甚だしいものがあるから許されないと解すべきである。強制執行の停止を命ずることは第三者である執行債権者に執行の避止を命ずるに帰するから、右の理由によつて許されないのである。尤も和議法第四〇条によれば、和議開始手続が開始されれば強制執行をなすことができず、開始前になされた強制執行は中止されるのであるが、和議開始の要件及び和議開始申立の棄却原因の存否の審査の完了前に保全処分によつて右同様の効果を発生せしめることは、執行債権者の蒙る不利益の甚大であることに鑑み、会社更生法第三七条第一項のような特別な規定(独逸和議法第十三条参照)がない限りなお許されないと解すべきである。のみならずこれが許されると解すれば和議を破産回避(和議法第一八条第一号)の奸手段に供するの弊を助長するの虞なしとしない。

以上の理由によつて本件強制執行停止の申立はこれを許すべきではないから主文のとおり決定する。

(裁判官 滝川叡一)

申立の趣旨

被申立人より申立人に対する東京法務局所属公証人十蔵寺宗雄作成昭和三十一年第一八〇六号金銭消費貸借契約公正証書正本にもとずき別紙目録<省略>記載の物件につきなした強制執行はこれを停止する。

との御裁判を求める。

申立の理由

一、申立会社は債務超過のため昭和三十一年九月六日御庁に和議法による和議開始の申立をなし、現に御庁昭和三十一年(コ)第二十号和議事件として繋属中であり、また同月十四日和議費用の予納決定にもとずき金五十万円の予納金を納付したものである。

二、被申立人は申立会社との間に昭和三十一年五月十日前掲公正証書にもとずき金三百六十六万九千三百円を期限同年六月三十日、利息年一割五分の割合で毎月末日払、期限後の損害金日歩八銭二厘の約束で金銭消費貸借契約を締結し、申立会社の不履行の結果、別紙第一目録記載の物件に対し同年九月十四日、同第二物件目録記載の物件に対し同月十三日いずれも右公正証書正本を債務名義として、申立会社所有の別紙第一、第二目録記載の物件に対し強制執行をなしてきたものであつて、その競売期日は同年九月二十八日および二十九日と指定された。

三、しかしながら、これら被差押物件はいずれも申立会社の和議条件履行のための財源支出の基本となる事業遂行上必須の物件である。すなわち、申立会社は和議条件履行のため石油鉱区における新油井の開発、旧油井の改修工事をなし、また天然ガス鉱区における天然ガスの採掘に全力を集中し、現に和議開始申立書添附の事業計画書記載の計画実施に着手しつつあるが、別紙第一目録記載の物件はいずれも深度二、〇〇〇米用サク井機一式であつて、いずれの部分を欠くも完全使用不能の一体的のものであり、かつ右事業計画遂行のため不可欠のものであるのみならず、現在請負井掘サクのため使用中のものである。

また別紙第二目録記載の物件中(一)ないし(二三)の物件は採油および送油設備とその附属工場用の機械でこれまた一体的なものである。以上の諸物件はいずれも申立会社の掘サク工事および採油、送油に必要な唯一の残された設備であつて、これを失うときは一切の事業活動は停止せざるをえないものである。

さらにこれらの物件の競売価格は総計金三百十五万円と見積られているが、これを新規に購入するときは約金八千万円以上を要するものであつて、右見積価格はまつたくのスクラップ値段に過ぎない。また別紙第二目録記載物件中(二四)ないし(二九)の物件は現場事務用什器であつて、その見積価格は金三万二千五百円であるが、これを新規に調えるにはその数倍の出捐を要するのみならず、和議開始の申立をなしている申立会社としては非緊要支出をなす余裕がなく、かつこれらの物件を失うときは現場の日常業務に支障をきたすのみならず、現場従業員の動揺をきたし、生産意慾を激減せしめることとなるのである。

四、いわば前段第一種の物件は申立会社の事業経営上の生命線的物件であり後段第二種の物件はその必要度は第一種のものにくらべれば軽度のものであるが、従業員の生産意慾に多大の影響を与えるものであつて、いずれも和議条件履行のための事業的基礎をくつがえすとともに競売により物件の経済的価格を著しく毀損し、回復不能に帰するので、和議開始前の保全処分として、和議開始決定の有無の決するまで、本件強制執行の停止命令を求めるため本申立に及んだ次第である。

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